2008年10月9日木曜日

独身者

仕事場のまえの道を歩いていたら、どこで咲いているのか金木犀の匂いがしていた。


我がベアトリーチェにしてハナ。

ときとして重力にあまりにも従順なものというのはある。それを指先で、あるいは掌でそっと受けとめ、軽くスナップをきかせて投げあげる。

落ちてきたら同じことを繰り返す。何度でも。

ふわふわと、つかのまの、甘美な戯れ。

そのときふと、あれ、これは何かに似てるな、と思った。チャプリンの独裁者の有名なシーンだ。それで今夜は彼女をハナと呼んでみたくなったわけだ。

不在のハナ。沈黙せるハナ。

いつかは星が地に堕ちる日もくるだろう。それを恐れるつもりはない。ただ、どうにかして軟着陸させることはできないものかとだけは念じている。願わくば、どこかきよらかな砂漠のほとりに、音もなく、ゆっくりと。