2008年3月23日日曜日

三人姉妹(2)

この芝居のテーマは「生きなきゃいけない」の一言に尽きる。

それで最初観たとき鈴木祥子の『PASSION』という曲を思い出した。今も頭の中で鳴っていて時おり口をついて出てくるのは劇中で歌われていたテーマ曲ではあるのだが、何秒かおきに何ミリ秒かずつ『PASSION』の断片が割り込んでくるのは抑えがたい。

1回目と2回目の間に坂口安吾の『堕落論』を古本屋で買って読んでいた。そこに書かれていることと『三人姉妹』という戯曲の間には重なる部分が多いのだが、この時期に安吾を読み出したのはまったくの偶然で、また鈴木祥子が好きな作家として挙げる一人でもあるけれど、そのこととも全然関係ない。

閑話休題。

100年も前の、それもロシアの作家の戯曲だから、セリフ単体で泣けたり笑えたりというのは難しい。それでもグッときたセリフがひとつある。

最後の場面、オーリガが妹たち、マーシャ(境宏子)とイリーナ(原田優理子)を抱き寄せて「何十年、何百年とたったら私たちの顔も、名前も、私たちが生きていたということも、誰もおぼえていないでしょう」という意味のことを言う。「それでも生きていかなくちゃいけない」と続く。

その「誰もおぼえていない」ことの中に「私たちが何人きょうだいだったかということも」というのが出てくる。これがグッときた。

このセリフにもかかわらず、この作品は『三人姉妹』という題名で21世紀の今日までその名をとどめ、その中に彼女たちは生き続けている。誰が仕掛けたのかわからない、そもそも仕掛けですらないのかもしれない、この不思議さに打たれた。

とはいえ長男のアンドレイ(Bキャスト大野洋範、Aキャスト木内貴大)も入れると正確には四人きょうだいなんだよな。でもタイトルは三人姉妹。

たしかにアンドレイは姉や妹たちに迷惑かけっぱなしだし、彼の不幸は姉妹の不幸とは別物かもしれない。ところが念の入ったことに亡き父の部下だったヴェルシーニン中佐も偶然赴任してきて再会した折に「小さいお嬢さんが三人いらっしゃったと記憶しています」と言う。アンドレイの立場はつくづく微妙だ。